不器用な殉愛

 それでも、剣を持つ彼には隙は見当たらなかった。

「——ヴァレリアン王子をとらえました!」

 そこへ、遠くから声が響いてくる。

 別の場所で戦っていたヴァレリアンは、果てることなくとらえられたらしい。彼の処遇は死刑と決めている。

 用心深く、剣を向けながらルディガーはたずねた。

「王太子はどうした?」

「さて、あれの考えていることは俺にもわからん」

 たしか、ジュール王太子は、ルディガーと同年代だったはず。形勢が不利と見てとれば、自分一人先に脱出しても、それをとめることはできないということだろう。

 ジュールが、もし、生き残りを図ろうとしているならば、いずれの日か、シュールリトン王家の再興もできなくはないかもしれない。こうして、ルディガーがセヴラン王家の再興を目指しているように。

「逃げようとは思わなかったのか」

「今さら、逃げたところでどうになる? 現実を見ることまでは忘れたわけではない——城内に裏切り者がいるというのもわかっていた——行くぞ」

 かつては、剣豪と恐れられたマクシムの鋭い一撃を、ルディガーはがしりと受け止めた。二人の剣がぶつかり合って、火花が散る。

「腕の方は衰えていないようだな」

「——言うな」

 なぜ、マクシムがここで彼を待っていたのかはわからなかった。だが、十年前には手も届かなかった相手を、今はルディガーの方が上回っていることだけはわかる。

 ルディガーの剣が、マクシムの剣を叩き落した。とらえろ、と命じる声に、一斉に部下達が取り押さえにかかる。
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