不器用な殉愛

 もし、ルディガーがディアヌを望んでくれたとして。家臣達にも認めさせることに成功したとして。

 彼の子供を産むことが許されたとしても——『あのマクシムの血を引く者』という事実はずっと付きまとう。

 ルディガーも、彼の血を引く者も。日の当たる道をまっすぐに進むべきだ。そこに、マクシム・ルフェーベルの血は必要ない。

「あなたが与えてくださる……好意はわかって、いるんです。きちんと、理解しては……いるんです」

 名前を変え、姿を変え、役目を与えてくれたこと。施療院にいる患者達は、身分の低い者ばかりだから、自分達の世話をしてくれる見習いが、本当は王妃だなんて知るはずもない。

『ディアヌ』のまま、彼らの前に出ていたとしたら、同じように身の回りの世話をしていたとしても、与えられる視線は全く別のものとなっただろう。

 彼の手配りで、少しだけ——光の側に近づくことができた。だが、それを当たり前のものと思ってはいけないのだ。

「感謝……しているんです、あなたに」

 それ以上は、口にしてはならない。それ以上を口にすれば——今の関係を、壊すことになってしまう。今だって、ぎりぎりのところでこらえているというのに。

「感謝なんて、その程度で足りるはずがないだろう」

 ——それなのに。

 彼はディアヌの弱さまで見抜いているみたいだ。その言葉の裏にある感情に、気づかないわけにはいかなかった。
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