不器用な殉愛
 彼の自分に向ける感情に、気が付いていないわけではない。自分の気持ちも伝わっている。やはり、父の血が邪魔をするのだ。

「ルディガー様、いつまでもあなたがいないというのは困ります。戻ってください。ディアヌ様は俺が部屋までお送りしましょう」

 困った雰囲気になったと思っていたら、救いの手が差し出された。おそらく少し離れたところから様子を見守っていたであろうノエルが二人の間に割り込んでくる。

 ほっとして大きく息をついたのを、ルディガーに気付かれなければいいのだが。

「そうしてください。ノエル、お願い」

 ルディガーの言葉も聞かずに、身をひるがえして歩き始める。あとからノエルがついてくるのを、少し行ったところで待った。

「助けてくださって、ありがとう」

「……いえ。余計なことかとは思ったのですが——このままではルディガー様はひきませんよ」

「そうね。あなたの言う通りだと思うわ——何か手を、考えなくてはね」

 それきりノエルにはかまわず、ディアヌは考え込む。

 あの時は、他に手段がないと思ったからルディガーにすがった。だが、それは過ちだったのだと今は思う。

 再会しないですむように、城が落ちるのと同時に逃げ出す算段をしておいた方がよかったのかもしれなかった。

「ごめんなさい、こんなことになるなんて思ってもいなかったから……」

 その言葉は、ノエルには向けたものではなかったけれど、ノエルは自分に向けたものと解釈したようだった。
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