不器用な殉愛

 本当に、これでけりがつくのだろうか。行方不明になっていた異母兄が、またこの国に戻ってくるとは思ってもいなかった。

 兄が戻ってくれば、また、多数の血が流れることになる。

「ノエル、出立の準備を頼む。連れていく者もお前に任せた」

「私は、うちの娘達がちゃんと落ち着いているかどうか確認してくる。動ける者は、この城の守りに使ってくれてかまわない。もちろん、私も協力するから」

 クラーラ院長が、僧衣の裾をひるがえし、大股に部屋を出ていく。その後ろ姿には、かつて戦場で暴れまわっていた頃を思い起こさせるような気迫があった。ディアヌが、その頃の院長を知っていたというわけではないけれど。

「……あの」

 皆が出ていき、二人になったところで、思いきって顔を上げる。

「お願いが、あるのですが」

 たぶん、婚姻関係を結んでから、ディアヌが願い事を口にしたのは初めてだったかもしれない。何事かと言うようにルディガーが首をかしげた。

「もし……異母兄を討ちにいくというのであれば、ヒューゲル侯爵も連れて行っていただけませんか……その、私が口を出していいことではないのはわかっているのですが」

「何があった?」

「少し前に……トレドリオ王家が滅びた時、母を守るために城に入ったのだと話してくれました。まだ、異母兄を……その……あの、なんと言えばいいのか」

 兄を殺すために、ヒューゲル侯爵を連れて行ってくれ、とは言えなかった。だが、侯爵には——異母兄がどんな最後を迎えるのか、見届けるだけの理由があると思ったのだ。
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