不器用な殉愛
「ああ……そういうことですか」
「あなた個人に恨みはありません。——ですが、マクシムの血を残しておくわけにはいかないのです。どうか——お許しください」
誰も覚えていないのかと思っていた。ジュールが命を落とし、マクシムの血を引く者はいなくなったと、皆、そう思っているのだと。
だが、ここに一人だけ、ディアヌの出自を忘れなかった人がいる。
「せめて、あの男の血を根絶やしにしなければ、陛下に、ブランシュ様に合わせる顔がないのですよ」
鞘から抜かれた剣が、日光を反射してきらめいた。ディアヌは、ゆっくりと口角を上げた。
「父の血を、皆——忘れたのだと思っていました。それが、母の望みだというのなら——」
侯爵に背を向け、背中にかかっていた髪をまとめて肩から胸の方へと流す。そして、もう一度、祭壇の前に膝をついた。
「あまり、見苦しい姿はさらしたくありません。それと……正面から見るのは怖いので、後ろからお願いできますか。心臓の位置、あなたならわかりますよね?」
首を切り落とされれば、見苦しい姿をさらすことになるし、大量に血を流すことになる。本当なら、この場所を立ち去るべきだったのかもしれないけれど。
「声をあげれば、誰かくるかもしれませんよ」
「いえ——父の血が問題だということは、私も知っているんです。トレドリオ王家の方々がそれを望むのなら……」
きっと、ルディガーは悲しむだろう。ジゼルも、クラーラ院長をはじめとした修道院の人達も。