不器用な殉愛
ジゼルにも黙って、自分の部屋を抜け出した。
——このままでは、彼のもとから離れることができない。
ルディガーが自分に愛情を持ってくれているのはわかっている。だが、幸せな未来というものを想像したことがなかっただけに、今、こうして幸せな未来を提示されると、どうしたらいいのかわからなくなる。
足早に廊下を進み、城の中にもうけられている礼拝堂に足を踏み入れた。
近いうちに、ここで改めて誓いをたてることになるのだろうか。
——本当に、このままでいいのかしら。
母も異父姉もいない。シュールリトン王家の血は滅びた。
祭壇の前に膝をつき、両手を組み合わせて祈りをささげる。そうしていたら、自分が何をすべきか、見えてくるような気がした。
「……神様、どうか。私に……正しい道をお示しください」
小さな声で、何度も何度も繰り返した。こうしたところで、答えなんて出てこないとわかっているのに。
不意に背後に人の気配を感じ、ディアヌは立ち上がってそちらを振り返る。礼拝堂の入り口から、こちらに向かって歩いてくるのはヒューゲル侯爵だった。
彼が緊張にこわばった表情をしているから、急激に不安がかきたてられる。
「ヒューゲル侯爵……何か、ありましたか」
「——申し訳ありません」
彼が懐から短剣を取り出した。その短剣にディアヌの目が吸い寄せられる。
短剣の鞘に刻まれていたのは、トレドリオ王家の紋章だった。それで、すべてを理解したような気がする。