不器用な殉愛

「——新女王に神の祝福を。そう言えばいいか?」

「私は、女王ではありません!」

 どうやら、ルディガーに王位を譲渡したのち、即座に退位したことまでは父の耳には入っていないようだった。

「私は、夫となる人にシュールリトン王家を継ぐ権利を渡しました。今の私は女王ではなく——ただの王の配偶者です」

「そうか……」

 ディアヌの声は、思っていたよりも強く響いた。ひょっとしたら、城の前に集まっている人全員の耳に届いてしまったかもしれない。

「——そこまでして、自分だけ生き残りたかったか。軍を率いて、侵略者に対抗することなどお前にできるはずもないものな」

 最後まで、父とはわかりあうことはできないらしい。彼の口から吐き出されるのは、娘に向けるのとは思えない呪詛の言葉ばかり。

 これ以上、彼と会話するのは無駄だ——唇を噛み締めた時、横から手を差し出したのはルディガーだった。

「お前のごたくにこれ以上付き合うつもりはない。そもそも、トレドリオ王家を滅ぼし、セヴラン王家を滅ぼした——侵略者は、お前の方だろう。もういい。やれ!」

「俺は、このようなところで終わる男では——」

 膝をつかされ、処刑台に頭を載せられた段階で、ようやく自分の死を認識したらしい。父の口からは悲痛な声が上がる。けれど、その声もまたディアヌには何の意味ももたなかった。

「——お父様の魂は、天国には行けるのかしら」

 そうつぶやくのと同時に、斧が振り下ろされる。叫び声が上がったのは、たった一度。ごろりと処刑台の上に首が落ちた。
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