不器用な殉愛
「申し開くことなど、何もあるものか。俺は、娘に売られただけだ! 大切にいつくしんでやったというのにな!」
「何が、大切に、よ……!」
侍女として、側に控えていたジゼルが怒りの声を上げた。物心つく前から、修道院に送り込み、そして成人するまで戻ってこさせなかったのに。
おそらく、どこぞの有力貴族に嫁がせるための駒として呼び戻されたのであろうこともディアヌにはわかっていた。
「……いいの。ジゼル。言いたいだけ言わせておきなさい」
どうせ、死にゆく人の口にすることだ。必要以上に、気に留めてもしかたない。
だが、ディアヌが反論しないのをいいことに、さらにマクシムは声を上げる。
「父を売り、兄を売り——自分が女王の地位に就いた。お前は、最初からそのつもりで、ルディガーに近づいたのだろう? 違うのか?」
——この人は。
不意に襲い掛かってきたのは、絶望という感情だったのかもしれない。父は、何一つ理解していなかった。なぜ、民の心が彼から離れたのか。
なぜ、ディアヌがルディガーに助けを求めたのか。
集まっている見物人達の視線が、一斉にディアヌに突き刺さる。父に苦しめられていたのは本当のことだろう。
だが、父を裏切り、自分一人が助かる道を選んだのだとすれば——周囲の人の見る目もまた変わってくる。