不埒な先生のいびつな溺愛
ついに想像は“コト”に及んだが、詳細に想像することは難しかった。
寝室のドアの前で女性が耐えきれず先生にキスをせがむところまでは想像できても、その先、寝室の中のことは、私には分からない。
なぜなら、私は一度も先生の寝室を見たことがないからだ。
場所は分かっている。
今いるリビングから見える扉の向こうが執筆している書斎、そしてその隣が、寝室だ。
しかし先生は、私のことは、絶対に寝室に入れようとはしない。
女性を連れてきたら、きっと先生はあそこに雪崩れ込むように……──
「……美和子」
先生の低い声にハッとした。
隣に先生がいることを忘れて想像に耽っていた。
先生は私を現実世界に呼び戻すと、私の瞳の、さらに奥へ奥へと視線を潜らせてきた。
「な、なんですか」
「今なに考えてた?」
私に全く興味のないはずの先生の瞳は、いつも私を捕らえて離さない。
先生のことが不思議だ。理解できない。
いつも私の奥を覗こうとする。何を考えているのか探ろうとしてくる。
どうして?
「何も?考えてません」
「考えてただろ。言えよ、美和子」
先生は結婚相手を探していて、手当たり次第に付き合っているのに、私に対しては一切、白羽の矢など立てなかった。
それなのにこんな瞳で見つめてくる。
これを付き合っている女性に対してやれば、相手だってイチコロのはずなのに。
いつも私にだけだ。私にだけ、意味の分からない不思議な魅力を、見せつけてくる。
吸い込まれそうな瞳に捕らえられながら思い出した。
──ちょうど一年前、先生が私を“美和子”と呼ぶようになったあの日、私もこの名前が、やっと好きになれたのだ。