不埒な先生のいびつな溺愛
先生は私が手首の痛みで泣いていると思ったようだった。もう一度触れようとはせずとも、私の赤くなった手首にじっと目をやっていた。

大して腫れてもいないのに、彼は目を細めて苦い顔をした。

「な、んで、泣くんだよ……」

「……先生。どうして先生は、私のこと“美和子”って呼ぶんですか?」

──やっと聞けた。ずっと、これを聞いたら先生が離れていってしまう気がしていた。

どうして今この質問をしたのかは自分でもよく分からないけれど、先生に対するいくつかの謎のうち、一番答えが知りたいことだった。

「……は?」

もちろん先生は、こんなときに脈絡のない質問を投げ掛けた私に顔を歪めた。

「ずっと気になっていたんです。だって、久遠先生は、高校時代はずっと私を“秋原”と呼んでいましたよね。どうして再会した先生は、私を“美和子”と呼ぶんですか?」

私がそう尋ねたのに、先生は五秒くらい黙ってしまった。そして次に先生は、なぜかフローリングにお尻をついて座り込んでしまったため、私はギョッとして彼に駆け寄った。

「先生!?」

肩に触れたが、先生は私のその手をすぐに振り払った。

変な薬でも飲んだかのように様子がおかしい。私を見る目もおかしい。私と目が合っているはずなのに、焦点が合わなかった。

座り込んだ先生はガタガタと震えている。

「先生……?」

やはり聞いてはいけないことだったのだろうか。
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