不埒な先生のいびつな溺愛
パッと立ち上がってみせたが、先生の顔は暗いままだった。いや暗いなんてものではない。病的に暗い。

私だって訳がわからなくて話がしたいのに、先生のこんな顔を見せられては、いつもこちらの感情は後回しになる。

先生にこんな顔をしてもらいたくない。昔からそうだった。私は先生の顔色に左右されてばかり。

「……今日は帰ってくれ。美和子」

「…はい」

いつもこうだ。どうして?

私はもっと、先生と普通の話がしたいのに。普通に近況とか、仕事のこととかを話して、たまには笑い合ったりもしたいだけだ。

今の先生が笑顔を見せたことは一度もない。それは私の前に限らず、誰の前でもだが。

でも、高校生の『久遠くん』は、私の前でだけなら、ごくたまに笑ってくれたのだ。

その顔は、目に焼き付くくらい、綺麗で──……

『秋原、お前、本当にそう思うのか?嘘だろ、そんなん、』

『思うよ。久遠くん、教師とか向いてるよ。教え方がすっごく分かりやすいもん。ね、迷惑じゃなきゃ、また教えてね?』

『……秋原なら、迷惑じゃない』

──そうだ。思い出した。
あのときの久遠くんも、そう言って笑っていた。

誰もいない自習室で、ふたりでひとつの机に向き合って、ひとつの問題を覗き込んでいた。

あのとき私はたしかに、“久遠くんが教師に向いている”と、彼に言ったんだ。
< 46 / 139 >

この作品をシェア

pagetop