不埒な先生のいびつな溺愛
「……伏見さん。忘れられない相手って、いらっしゃったことありますか?」

「ないですね」

「え」

あまりにも即答だったため、私は一瞬先生のことは飛んで、伏見さんを見た。

彼は笑っていた。

「そんなドラマチックな思い出はありませんよ。秋原さんにはあるんですね。羨ましいなあ」

「い、いえ、聞いてみただけです」

「どんな方なんですか?」

恥ずかしい。伏見さんに見抜かれている。

先生とはあまりにも違う、停滞することなく流れていく会話に、私は戸惑っていた。私は答えるしかなくて、どんどん情報を引き出されていくのが分かった。

「昔、お互いがお互いのことをすごく理解して、必要としていると、そう思っている人がいました。その人とは突然別れがやってきたのですが、連絡先も交換していなかったので、連絡をとる手段もなく、その後会うこともないと思っていたんです」

「はい」

「でも十年以上も後に再会することになって。そしたらその人は、違う人みたいになっていたんです」

「どんな風に?」

「……理解し合っていたころは、恋人でなくてもきっとお互い特別な存在だと思っていたのに、彼にとって私は、まったくそんな存在じゃなかったみたいで。今まで私の目に映っていた彼は、全部幻だったように感じたんです。側にいても、まるで全部、嘘みたいに」
< 49 / 139 >

この作品をシェア

pagetop