不埒な先生のいびつな溺愛
先生は何か言いかけていたけれど、信号が青になって、先生はまた前を向くことを余儀なくされ、それとともに先生は自分の話を中断させてしまった。

それからふたりとも、しばらく黙っていた。

雨が振りだして、すぐにワイパーの規則的な音がしだした。

その規則的な音が、私たちの時間を巻き戻していく振り子時計の音のようで、私はぼんやりと高校時代のことを思い出していた。

今日の先生は、あの頃の“久遠くん“みたいだ。

他人を寄せ付けない性格だけれど、本当は繊細で、寂しがりや。

その繊細さを横暴さで隠しているけれど、振り切れると、こうして寡黙になって、何を考えているのか分からなくなってしまう。

そんな“久遠くん”と一緒にいる日々が好きだった。
扱いにくくて、これといって面白いことだってなかったけれど、彼といると心が安らいだ。

彼といて心が安らぐなんて人はなかなかいないかもしれないが、私はそうだったのだ。

こうやって静かに隣にいられるだけで良かった。

こんなときになって、あの頃の気持ちを思い出すなんて、残酷だ。


先生は私のマンションの前まで車をつけてくれた。

助手席を降りて、運転席の方へと回り込み、窓を開けてくれた先生と顔を合わせる。

「すみませんでした。先生、気をつけてくださいね。場所は分かりましたので、必要ことがあればご連絡をいただければ、すぐにでも行きます。なんでも頼って下さい」

「ああ。悪かったな美和子。心配かけた」

車が行ってしまった。

先生。元気を出してなんてとても言えないけれど。どうかこれ以上苦しまないでほしい。そのためなら私はいくらでもそばにいる。

先生が悲しんでいると、私は昔から眠れないのだ。
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