16の、ハネ。
 
やっと掃除が終わり、早く帰ろうと思って外に出ると、男子たちがギャーギャー騒ぎながら雪合戦をしていた。そう、先日降った雪がまだ残っていたのだ。

ていうか、この歳になってまだ雪合戦とか、幼いにもほどがある。しかも、朝の放送で危険だからやめましょうって言われてたのに。よっぽどスマホを昼休みに使うことより、悪いことだと思うんだけど。


まあ、文句を言ったところで仕方ない。私は流れ弾に注意しながら昇降口を出た。……はずだった。

はずだったのに、見事に一発、大きな雪玉が後頭部に直撃した。その瞬間、今朝聞いたばかりの、とあるフレーズを思い出す。


“帰路の途中で思いがけないアクシデントが起こりそう”


これのことか!!
ていうか、すごい痛いんですけど!!

痛みに耐えながら、反射的に髪の毛にかかった雪を払ったが、時すでに遅し。

白い雪はゆっくり溶けて、やがて水となり、私の首筋につつつ、と垂れていった。


不快指数120パーセント。


タイミングが良いのか悪いのか、ちょうど北風が私の横を吹き抜けていった。
凍てつくような寒さが背筋に走る。


おまけに、急に思い出したかのように生理による頭痛が戻ってきた。腰も重い。



その時点で私はイライラの頂点まで来ていた。

しかし、なんとか自分を抑えられたのは、当てた男子が小走りで私の元に来たからかもしれない。


「あ、あの、その……サーセンっした!」


勢い良く頭を下げた男子はしばらくの間、その姿勢を保っていた。

ええっと、「大丈夫です」って言えばいいのか? でも、はっきり言って、全然大丈夫ではない。制服濡れたし。これで風邪ひいたら、絶対コイツのせいだ。
などと、私はちょうど良い言葉を探すため、しばらく無言で立ち尽くしていた。

それを、怒っているとでも勘違いしたのだろう。その男子は、チラッと上目遣いをしながら「あ、あのでも、わざとじゃないっす……」と弁解をする。

そこでプツン、と張り詰めていた何かが切れた。いや、タガが外れたと言うのか?

とにかく、その態度が私の癪に障ったのが原因なのは間違いない。私には、嫌いな人がたくさんいるが、その中でも特に言い訳をする男は最も嫌いであった。




気がつけば、私は降り積もっていた雪を、ガシリと掴み取って丸く固めていた。
そして、困惑しているそいつの顔面目掛けてピッチングする。

ストライク! バッターアウト!

……まあ、ほぼゼロ距離から投げたから当然といえば当然なんだけど。



「これでおあいこです!」

私はとびきりの笑顔で会釈して、颯爽とその場を後にした。災難ではあったが、これが一番人生でスカッとした瞬間だったかもしれない。




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