仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
「迷惑を承知で……、あっ、もちろん、聞き流してもらって構いません!
ただ、これを伝えたら、明日はもっと頑張れそうな気がするんです。

一つだけ、慧さんに伝えてもいいですか……?」


「……うん」

涙声をごまかすようにワザと明るく取り繕って言うと、慧さんからは神妙な声音が返ってきた。


ついに、本当の終わりを迎えるんだな。

涙がボロボロと溢れるまま、私は薔薇の花束を抱きしめた。



「――会いたいです、慧さん」

「…………ッ!」


彼が息を飲むような音がした。


何か言われるのが怖くて、間を置かずに「ありがとう、ございました。……おやすみなさい!」と逃げるように言った。



「……わかった。おやすみ、結衣」

静寂に包まれた部屋の中、彼の感情を堪えるような声が、甘く痺れるように耳朶へ沁み入った。

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