仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
つい癖で曖昧に微笑みそうになって、顔を引き締める。
絶対に常盤社長の期待に応えてみせる! という意気込みが伝わるよう、「はい!」と力強く返した。


「それでは失礼致します。お疲れ様です」

私は再び頭を下げてから笑顔を浮かべ、常盤社長と社長へ挨拶をして会議室を退出した。


ふと視線を上げると、会議室内の常盤社長と目が合う。

私に向かって「またね」と声にせず唇を動かし、ひらひらと手を振ってくれた。

まるで蜂蜜が琥珀の上で蕩けるような瞳が、優しげに細められる。
そんな彼の表情にトクリと胸がときめいた。

ふわふわとした思考のまま、思わず手を振りそうになってしまい慌てて引っ込める。

羞恥心で赤くなった顔を隠すように腰を折って頭を下げると、受付へ向かうために急いで踵を返した。



「あれっ、結衣ちゃん! おはようございまーす!」

廊下に出たところで、前方に居た女性がこちらへ向かって走り寄ってきた。

「媛乃(ひめの)ちゃん! おはようございます」

媛乃ちゃんは、あのデパートのメインモデルのお仕事を射止めた私の同期だ。

栗色の髪に、ふんわりと緩めのパーマをかけている。
ぱっちりとした黒目がちの瞳にベビーピンクの唇。いつもパステルカラーのお洋服が似合っていて、とても可愛い。
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