よくばりな恋 〜宝物〜
あの新入社員研修のとき。
会社の研修施設に泊まり込み、詰め込まれる社会人としてのマナーや知識、学生気分が抜けきらない空斗たちには決して楽しいものではなかった。
夜はアルコールは禁止だったものの、気の合う者同士集まって遅くまで喋っていた。
空斗の素性は昔から自分からは絶対話したりはしないけれど、「斯波」という珍しい苗字と京都はおろか関西でも名の知れた病院名を結びつけて考える者は少なくなかった。
「えーっっ、大病院の息子やん!医学部行かなくて良かったの!?」
「勿体無い!医学部行ける学力は充分あったやろ」
案の定、すぐにバレた空斗の正体にもう何千回も聞き慣れた言葉をかけられる。
「いや、なりたくなかったし」
そして空斗も言い慣れた言葉を返す。
ほっとけと怒鳴りたいのを我慢して。
「やりたいこと出来て良かったねぇー」
傍らから聞こえた小さな声。
「会社員より医者の方が絶対稼げるのに?」
誰かが反論する。
「えー・・・だってなりたくなかったのにぃって思ってるお医者さんに診てもらうより、なりたくてたまらなかったって熱意のあるお医者さんに診てもらう方がわたしはええなぁ・・・」