嘘ごと、愛して。

まだ駅員に外国人が詰め寄っていて、時間だけが過ぎていく。
観光雑誌を広げてなにやら説明をしている彼らの間に、割り込んでも良いだろうか。
どこの国の方か分からないが、怒ってしまうだろうか。


「あの、すみません!」


思い切って話しかけようとすると、背後から強い力で押された。


「てめぇ、退けよ!」


大柄な男だった。
明らかに日本人と思われる男は私を押しのけ、さらに外国人の間に割り込もうとする。


「待って!次は私なの!」


男のボストンバッグを引っ張る。
首の辺りにタトゥーを入れて耳に大きなピアスをした中年の男は、サングラスを上にずらして私を見た。


「あ?なんか文句あるのかよ?」


「あるわよ!並んでたの!」


男に譲ってたまるかと、道を塞ぐ。


「あ?」

痛っ。

男は眉間にいくつもの皺を刻み、私が掴んでいたボストンバッグを思いっきり投げつけて来た。

想像以上に重いバッグが腹に直撃し、勢いよく床に落ちた。


「生意気言ってんじゃねぇよ、殺すぞ…はやっ、」


しかし威勢の良い声は、途中で途切れた。


男が私を睨みつけることを止めて、背後を振り返る。


「何するんだ、テメェ!」


男の視線の先に、正義がいた。

< 181 / 185 >

この作品をシェア

pagetop