嘘ごと、愛して。
まだ駅員に外国人が詰め寄っていて、時間だけが過ぎていく。
観光雑誌を広げてなにやら説明をしている彼らの間に、割り込んでも良いだろうか。
どこの国の方か分からないが、怒ってしまうだろうか。
「あの、すみません!」
思い切って話しかけようとすると、背後から強い力で押された。
「てめぇ、退けよ!」
大柄な男だった。
明らかに日本人と思われる男は私を押しのけ、さらに外国人の間に割り込もうとする。
「待って!次は私なの!」
男のボストンバッグを引っ張る。
首の辺りにタトゥーを入れて耳に大きなピアスをした中年の男は、サングラスを上にずらして私を見た。
「あ?なんか文句あるのかよ?」
「あるわよ!並んでたの!」
男に譲ってたまるかと、道を塞ぐ。
「あ?」
痛っ。
男は眉間にいくつもの皺を刻み、私が掴んでいたボストンバッグを思いっきり投げつけて来た。
想像以上に重いバッグが腹に直撃し、勢いよく床に落ちた。
「生意気言ってんじゃねぇよ、殺すぞ…はやっ、」
しかし威勢の良い声は、途中で途切れた。
男が私を睨みつけることを止めて、背後を振り返る。
「何するんだ、テメェ!」
男の視線の先に、正義がいた。