嘘ごと、愛して。
「女相手に、みっともねぇな」
「俺のケツを蹴ったのはテメェか!死ね!」
男の暴言を無視して、正義は床に落ちたボストンバッグを右足で踏み潰した。
「誰のバッグだと思ってやがる!その汚い足を退けろよ!!」
男が喚きちらしているが、それどころではない。
どこからか現れた正義に駆け寄って、その腕をとる。
「良かった…」
まだ電車に乗ってなくて、本当に良かった。
「正義…」
正義が私を見て、笑った。
その笑顔に心が落ち着いた。
「テメェら知り合いか!まとめて痛い目に合わせてやる」
「おにーさん。ところで急いでたんじゃないの?俺たちに構ってて平気なの?」
「くそッ、」
激情する男に、余裕の笑みを浮かべた正義は呑気な声を出す。
「ほら、どーぞ」
ボストンバッグの持ち手に足を引っ掛け、そのまま男に投げつけた。見事にキャッチした男は電光掲示板をチラ見して、盛大な舌打ちをする。
どうやら本当に急いでるようだ。
「次会った時は覚えてろ!!」
「良い旅を」
正義は手をひらひらとさせる。
駅員も外国人もこちらに視線を向けていた。
「新幹線の切符を失くしたんだ!入れてくれ!!」
今度は駅員に向かって大声を出し始めた中年男を無視して、正義と向き合う。
「大丈夫?」
そうだった。
少し前まではボストンバッグのせいでお腹が痛かったことを思い出す。
「うん、平気」
正義に会えたのだからこれくらいのことは、へっちゃらだよ。