初恋とチョコレートと花束と。
「アリス~!」
そう呼ぶと、振り返ったアリスはそのまま私のそばまで走ってきた。
そこの壁に『ろう下は走るな!』と書かれたポスターがあるけれど、いいのかな?
「綾!目がさめたんだね!」
——いきなり目の前で倒れたんだもん。びっくりしたよ。
ほっとしたように言ったアリスに、「心配かけてごめんね」と謝る。
「まぁ、綾が帰った・・・な~んてことにはならなくてよかったよ。あたし一人はやっぱりさみしいし」
言いながら、にこっと笑うアリス。
それにつられて、私も笑顔になる。
「・・・ね、たまには図書室行かない?」
もちろん、行こう!・・・と言おうとして、私は何かが引っかかる。
図書室?アリスが?
そう考えてしまったくらい、本が嫌いなアリスが図書室に行きたいと言うのはめずらしいこと・・・というより、多分初めてかも。
マンガだったら、たくさん読んでるんだけどね。
「何か読みたい本でもあるの?」
「そう!この間授業で調べものをしてた時にね、好きなシリーズの小説版をたまたま見つけたの」
言った後にそれはないかと思ったんだけれど、私の考えは当たってたみたい。
「そっか。それなら、時間があるうちに早く行こっ」
私はアリスの手を取ると、図書室に向かって歩き出す。
と言っても教室と同じ階にあるから、図書室に着くのはあっという間。
中にいるのは図書委員のお兄さん、それと他にも何人か。
今日は晴れてるからきっと、皆外か教室で遊んでるんだろうな。
雨の日はさらに人が来るから、結構混むんだけれどね。
「あたし、ちょっと借りてくるね」
「・・・あ、場所とかわかる?」
「うん、へーき。この前バッチリ覚えたからねっ」
中に入ったとたんアリスはそう言って、隣の部屋に本を探しに行った。
私も何か読もうと、一番近くにあった背の高い本棚を見あげる。
ここは・・・特集のコーナー?
今月はホラー特集らしく、置いてある本は表紙からして怖そうなものばかり。
「・・・ねぇ、綾ちゃん」
背表紙に書かれている文字を読んでると、突然後ろから声をかけられた。
他の人なら振り返って誰だか確認するんだろうけれど、怖い話が苦手な私にはそうすることができなくて。
しばらくそのまま動けずにいると、肩にポンと何かが置かれた。