沈黙する記憶
「やめろよ克矢」


裕斗が止めに入り克矢が手を離した。


ほんの数秒掴まれていただけなのに、あたしの腕には克矢の指の痕がクッキリと残っている。


その力に背筋がゾクリと寒くなった。


こんな力でねじ伏せられたら、あたしたち女は抵抗もできなくなるだろう。


そういえば克矢は彼女ができるまで杏の事が好きだと言っていた。


諦める気はあるけれど、なかなかキッパリと断ち切ることができないんだと、仲間内にこぼしていたのだ。


あたしは克矢から数歩後ずさりをした。


まさか、克矢が杏を……?


夏男に罪をなすりつけようとしている?


そんな考えが頭をよぎる。


「千奈、大丈夫か?」


裕斗に言われてあたしはハッと我に返った。


根拠のない推理は邪魔になるだけだ。


そう思い、強く頭をふって今の考えをかき消したのだった。
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