沈黙する記憶
思い出す
明日また会う約束をして、夕方頃家に戻ってきていた。


1人になると自然と杏の事を思い出す。


机に向かって課題を開きながらも、気持ちは杏へと向いていた。


いつも明るく前向きで元気いっぱいで、みんなのアイドル的存在だった杏。


夏男と付き合い始めた時は男子生徒たちが一様に肩を落としてため息をついていた。


杏に告白する勇気を持っていた夏男だからこそ、杏と付き合う事ができたのだ。


2人はとても幸せそうで、学校内外で常に一緒にいるような状態だった。


あたしも、杏の口から夏男とののろけ話をよく聞いていた。


その度に杏を羨ましいと感じていたのだ。


杏のファンが多かったように、夏男に思いを寄せている子も少なくはなかった。


元々杏と同じ前向きな性格をしているし、女子に対してはとても優しい。


ちょっとしたことでも気遣いができる夏男を、女子生徒たちはとても気に入っていた。


そしてそれはさやも同じだった。


あたしは今日あまり口を開かなかったさやの事を思い出していた。


大人しくて、争いごとが嫌いなさや。


杏よりも小さくて華奢で、自分の気持ちより人の気持ちを優先させるような性格をしている。


「さやが杏をどこかへ閉じ込めるなんて、絶対に無理」


あたしはそう呟いた。
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