沈黙する記憶
「夏男、千奈ちゃんが来たわよ」


部屋の前でそう言う様子は、いつも通りだ。


杏がいなくなって慌ただしいから少し疲れている顔をしているけれど、あたしの知っている夏男のお母さんだった。


「千奈……」


部屋から出て来た夏男にあたしは思わず悲鳴をあげていた。


何日もヒゲをそっておらず顔の半分が隠れている。


目の下はクマで真っ黒になり、髪の毛も手入れされていない。


その様子はまるで浮浪者のようで、あたしは言葉を失ってしまった。


「驚かせてごめん……」


夏男はそう言いながらあたしを部屋に入れてくれた。


部屋の中も全く掃除されておらず、テーブルの上には杏と一緒にうつっている写真が散乱している。


まともな私生活さえ送れなくなっている夏男にあたしの胸はギュッと締め付けられた。


「夏男……」


「ごめん、僕なら大丈夫だから」


そう言いながらも足元はフラフラしていて、こけるようにベッドに座った。
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