沈黙する記憶
さすが母親だ。


あたしたちの行動もすべてお見通しな様子だ。


「そうなんです……」


あたしは離すべきかどうか悩み、言葉を濁した。


「何か、他に私がお手伝いできることがあるの? それなら、なんでも言ってね?」


言葉をつなげる事ができないあたしに変わり、杏のお母さんがそう言ってくれた。


「実は……杏の制服を貸してほしいんです」


「杏の制服?」


さすがのお母さんもこの申し出には少し表情を変えた。


「それか、杏のネームだけでもいいんです」


あたしは慌ててそう言った。


「そうね。制服はちょっと……でもネームなら貸してあげられるわ」


その言葉にあたしはホッと胸をなで下ろしたのだった。
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