沈黙する記憶
それを見てホッと息を吐き出す。


まさか本当にホテルへ向けて移動することになるとは思っていなかった。


計画は本当にうまく行くだろうか?


自然と手に力が入り、握り拳を作ってしまう。


Kマートから車で10分ほどの場所に、ホテル街が見え始めた。


色んなホテルが立ち並び、どれもが競争するように派手な外観をしている。


その中の一つに夏男は車を滑り込ませた。


迷いなくこのホテルを選ぶと言う事は、何度も杏とここを訪れていたということなんだろう。


そう考えると、なんだか恥ずかしくなって顔が熱くなった。


「どこの部屋でもいいよね?」


「うん」


あたしがそう頷くと、夏男は開いている部屋のパネルをタッチした。


部屋の決め方を知っている辺りも、すごく馴れている感じがする。


車はするするとホテルの奥へと進んでいき、指定した部屋番号の駐車場に停止した。


「杏? 緊張してる?」


あたしがボーっと助手席に座っているのを見て、夏男がそう聞いて来た。


「え、ううん。大丈夫だよ」


あたしはそう言うと、慌てて車を下りたのだった。
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