沈黙する記憶
☆☆☆

それから更に数時間後。


夏男の車が見知らぬ山の中で停車した。


あたりはすでに真っ暗で、周囲には街灯もない。


克矢は道が少し開けた場所まで行き、車を止めた。


全員で車を下りて夏男がいた場所まで歩く。


移動している時はみんな無言で、木々を揺らす風の音だけが耳に届いて来ていた。


ここで夏男が何をしているのか、それを目撃してしまうともう後戻りはできない。


そんな思いが胸の中にあった。


できれば何も見ずに、何も知らずに帰りたい。


だけど、あたしの右手はさやが、左手は由花がしっかりと握りしめていて、そのおかげであたしは逃げ出さずにすんでいた。
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