浮気の定理
私が返事ができないでいると、上司が心配そうに私の肩に手を置いた。



「嫌っ!」



反射的にそう言いながら、その手を弾いてしまった。



誰にも私の体に触れてほしくなかった。



ハッと気づいた時には、気まずそうに立ち尽くす上司の姿があった。



「ごめんなさい……あの、早退してもよろしいでしょうか?」



もうここにはいられない。



具合が悪い振りをして、帰ってしまおう。



そう思って、なんとかそう告げた。



「あ、あぁ……顔色も悪いし……たしかに帰った方が良さそうだな?」
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