淡雪
第十五章
 奈緒に会って話をすべきだ、とは思うものの、会ったところでどうなるのか、逆効果になりはしないか、などと考えているうちに二日ほど経った。
 その間に、伊田家から奈緒の分の借財が、きっちり小槌屋に払われた。

「これでめでたく元通り。わしとしては、めでたく、とは言い難いですが」

 三方に乗せられた金を前に、小槌屋はぼやくように言った。

「俺が奈緒を娶れば、めでたしだったわけか」

「初めはそう思いましたがね。お嬢様が、あそこまで花魁に嫉妬しなければ。いや、そもそもそこまで旦那に入れ込んでるとも思わなかったんですよ。そんな親しかったわけでもないでしょう? ましてお嬢様には、許嫁がいるのですし」

「俺に惚れての行動かは、正直わからんが。それにしちゃ、ちょっと急すぎるし激しすぎる。武家娘だっつぅ気位が音羽の存在を許せねぇってんなら、揚羽を攫ったりする行動は、それこそ気位が許さねぇはずだ。あいつの行動、ちょっとおかしいぜ」

「旦那に恋するが故……かもしれませぬが。それにしちゃ確かに急激に激しく旦那に惹かれてますな。別に許嫁を嫌ってる風でもないのに、さして男前でもない旦那に、そこまで一気に持っていかれるのもおかしな話です」

「……悪かったな」

「初めに無頼漢からお嬢様を救った、てのが、まずかったのかもしれませんねぇ」

 箱入り娘であれば、立ち回りなどあまり目にすることはない。
 鮮やかな立ち回りで己を助けてくれれば、ころっと落ちるのかもしれないが。

「まぁ、済んだことは、もういいですよ。先も言いましたが、これでお嬢様とのしがらみも、一応断たれたわけです。お嬢様の家の借財はまだ残ってますから、完全に切れたわけではないですが。これにて一件落着ですよ」

 ぱん、と小槌屋が手を叩く。

「そう……だな。あとは揚羽の髪が伸びれば、全て元通り」
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