秘密の会議は土曜日に
「それはダメー!」

思わず叫ぶと、「どうして?」と高柳さんは不満顔だ。


「ただの社員の一人が誰と付き合おうが、誰も気にしないでしょ」


「高柳さんはただの社員じゃないですって!!」


中々納得してくれない高柳さんに、「プロジェクトの士気が下がるから」、「私も注目を浴びて困る」と言葉を重ねて説得した。


「……わかったよ。理緒が毎日この家に帰ってくるなら、今は我慢する。」


ほっと胸を撫で下ろしたものの、午後になって出掛けようとすると高柳さんに止められてしまった。まだ少し拗ねた顔をしてる。


「何処行こうとしてるの?」


通っている子供向けのプログラム教室のことを説明すると、意外なことに高柳さんも興味を持って一緒に来てくれた。





「オジサン誰?」


「カケル少年、オジサンは失礼ですよ。この方は日本のIT業界を担う若きカリスマです。敬意を持って『閣下』とお呼びしてください。」


「待て理緒、変な紹介するな!」


「へー、閣下ってねーちゃんの男?

なんだよ、それで最近急に色気付いたのかよー。」


高柳さんは早速子供たちに絡まれて、質問責めのもみくちゃになっていた。遠くで「こら、引っ張るな」と困ってる高柳さんの声が聞こえてくる。





「……休日なのに、疲れちゃいましたよね。」


「いや、仕事を忘れて没頭したよ。理緒の大人げない一面も見れて満足だ。子供相手に手加減してなくて笑った。」


「むむ……。技術屋としてそれはできませんよ。」


そう返すと「古いタイプの職人みたい」と笑われた。高柳さんは私に負けていじける子供に、プログラムの修正点を教えてくれたらしい。


「高柳さんが講師なんて贅沢ですね。私が習いたいくらいなんですけど……いいなぁ、あの子達。」


「理緒は俺が教えなくても十分できるだろ。

それにしても今日は楽しかった。こういう休みは悪くないな。」


「それならよかったです。

でも最近思うんですけど、せっかくプログラムに興味持ってくれたんだからもっと深く教えたいんですよね。

ネットリテラシーとかインフラの知識も大事だし、単純なプログラムの練習だけじゃなくて、長期的に何かを作る楽しさにも触れてほしい……」


「理緒らしいマニアックな観点だな。そのアイディアは良い。ボランティアだけじゃなくて、理緒のビジネスにしたら?」


「私の……ビジネス?」


「プログラミングが義務教育化するから需要はあるんじゃないか?教育機関と提携するのもいいかもしれない。

理緒が社長をするなら、俺が補佐するよ。」


「しゃ、社長……?そんな大それたことできませんって!」


「どうかな。これでも俺は人を見る目はあるつもりだけどね。」


夢物語みたいな高柳さんの話。想像するだけならやりたいことが溢れて楽しい。


でもそんな妄想も、夜寝る前には火急の問題に直面して何処かに飛んでいった。


「あの……まさかここに、一緒に寝るんですか?」
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