秘密の会議は土曜日に
しばらく無言のまま歩いたあと、閣下が静かに言った。


「さっきも思ったんだけど、理緒はもしかして男が怖い?」


普段なら聞かれたくない質問だけど、低くて柔らかな閣下の声には自然と答えていた。いつもより普通に話せたのは、少しだけお酒が入っていたせいかもしれない。


「……怖いというか、苦手というか。

仕事相手ならまだ平気なんですけど、それ以外の男の人はまともにコミュニケーションとれないんです。

でも、普段はこれでも案外困らないんですよ。男の人は私みたいなのは嫌いだから、コミュニケーション取る必要もないんで。」


「俺も、苦手?」


「閣下のことは尊敬してますし怖くないです……けど」


怖くはないのに目が合うと息が止まりそうになるし、近くにいれば動悸がする。繋いだ手は今も熱いままなので、誰よりも混乱する相手なことは確かだ。


「けど?」


「いえ、プロジェクトが始まれば閣下とはご一緒に仕事させていただくことになりますし、それに大事なお客様ですから。怖いとか嫌いとか思わないですよ。」


「……今のは少しだけ、俺には痛い。」


痛い?


手を繋ぐ力が強すぎのかもと慌てて閣下を見上げると「違う、違う」と笑われた。


「そうだな、週明けの水曜からはこちらに常駐してもらうし、会社で会うことも増えるかもな。」


「え!?水曜?そんなに早く?」


「その日がキックオフミーティング……って理緒には連絡きてないの?先週にはメルトン情報に通知してたはずなんだけど。」


「そうなんですか?プロジェクトにアサインされたの今日ですよ!引き継ぎ間に合わないかもっ!」


「……やっぱり理緒の部署の課長はまともに仕事してないみたいだね。」


さっきとは違う冷や汗を全身に浮かべたところで、ちょうど家の前に着いた。


「送って頂いて、ありがとうごさいました。」


「それは構わないけど、今は深夜0時半。さっきから土曜なんだよな」
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