クリスタルガラスは壊れない
中学卒業直後、つまり、私と春樹が付き合いたてのホヤホヤだった頃。
「翔子」
「なんですかー?」
長い付き合いゆえに、お互いの家、はたまた部屋への行き来がしょっちゅうだった私達。この日も、春樹は私の部屋に来ていた。
「一応、俺、彼氏…だよな?」
「……え、うん」
私はベッドに寝転び、高校生前の謎の余韻に浸っていた。部屋の学習机や床には、入学前の宿題が散乱している。
その中に、春樹が慄くブツが紛れていたわけだ。
春樹が怖々とブツを取り出す。
「これ、なに」
「何もナニも。ボーイズラブな漫画だけど」
「いやいや、それをなんでこうも堂々と! しかも宿題に紛れて!」
「入学説明会の日が新刊の発売日でさー、そのまま買いに行った」
「いやこれR指定物じゃん! 俺らまだ15歳…」
春樹が摘んでいる漫画は、私が敬愛しているBL漫画家さんの最新作だった。確かにR指定だし、表紙からして肌色が大半を占めているから恥ずかしいのもわかる。
私は起き上がって、春樹から漫画を奪い取るとパラパラとページを捲る。そこには…
「ほらごらん…キミの瞳が涙と星空でキラキラと輝いてみ」
「やめろおおおおおおおおお!」
端正な顔立ちの男が2人、いちゃいちゃしている素敵空間が広がっていた。思わず音読したら、春樹に叫ばれた。
「まぁ、私が買うには年齢が足りないから、買ってもらったのよ」
「だ、誰に…? もしかして…」
そうだ。発売日はちょうど、入学説明会の日。説明会に付き物なのは、
「ピンポーン! 保護者であるお父さんでーす!」
「おじさんかわいそう!」
春樹はそんなこと言っていたけれど、娘に嫌われたくない一心の父親は無の表情で買ってきてくれたよ。君も将来そうなるかもしれないよ、見習ってほしい。
「うーん…」
「どうしたのハルキング」
「他人事みたいに言ってるけど、翔子、このままいったら俺が父親で翔子が母親だよな」
「え? ええ?」
あれ、違う?だなんて笑顔で言う彼に、少しむかついた。そうだ、この前から私と春樹は付き合っているんだ。
「わ、私は腐女子でいたいんだー!」
そして、ケラケラ笑う彼に、漫画のエロシーンを投げつけてやった。