仮面のシンデレラ


チェシャは彼を見上げた。

ウサギの表情は全く変わらなかった。

いつもの穏やかな彼がそこにいた。

再び、部屋に沈黙が流れる。

ウサギの桜色の瞳が、わずかに熱を持った。


「…勘違いしないでね、チェシャ。僕は、アリスを危険に晒した君を怒ったけど、アリスをエラだと思えない君の気持ちは、僕が1番分かってるんだよ。」


「…!」


チェシャは、ウサギを見つめた。

彼の瞳に何が見えているのか、チェシャには分からなかった。

ウサギは、ぽつりと呟く。


「…アリスは人間界には帰さない。」


「!」


「僕の描いた未来通りになるまではね。」


チェシャは、小さく息を呑んだ。

ティーカップの紅茶に映ったウサギの影が、ゆらゆらと揺らめく。

…そして、2人の間にそれ以上の会話はなかった。


第2章*終
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