仮面のシンデレラ


誰もがその歌声に聞き入った。

人々の注目がリューイに集まる中、再び笛の声が響く。


『“私”はこの世界にやってきた〜♫白い男を追いかけて〜♩交わした契りに縛られて〜♬それが禁忌と知りながら〜…それが罠だと気付かずに〜♪』


(!!)


どくん!


体が震えた。

暗示のようなその歌詞で、唯一分かるのは“白い男を追いかけて”という部分だ。

まさに、ウサギさんの後をつけてこの世界に迷い込んだ私を指しているように思えた。


ぎゅうっ!


チェシャが、私の手を取る。


「逃げよう、“アリス”…!」


「!」


「あの女、“第2のエラ”の正体を笛に歌わせて、君を処刑させるつもりだよ…!」


私は、どくどくと心臓を鳴らしながら尋ねる。


「ど、どうして私を…?!」


「あの女の考えなんて、僕が分かるわけないでしょ!」


笛は高らかに歌い続ける。


『“私”の本当の名を知るものはここにいない〜♫“私”は裏切り者〜♩騙し、騙され、闇に姿を隠してみせよう〜♫愛した人を守るため〜♪』


(…?)


微かな違和感を感じた。

すると、トレメインがトドメを刺す一言を言い放つ。


「さぁ、歌いなさい…!“闇に隠れた裏切り者”の名は…!」


(!!)


チェシャが、ポゥッ!とローズピンクの瞳を輝かせた。

苦し紛れに姿を消す私。

皆、笛に釘付けになっている。


すると、次の瞬間。

笛の音色が、ぴたり、止まった。


(…人生、終わった……!)


辺りが静まり返り誰一人声を出せない中、真実を歌う笛は、迷いなく“その名”を口にする。


『世界を敵にした“私”の名は───




────“オズ”。』


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