キライ、じゃないよ。
「原川さんね、樫と連絡取り合ってるんだって……」

「は?原川ってあのケバ?」


高校時代から派手だった彼女の、当時の香が付けたアダ名。恵麻=ケバってことらしい。

よく覚えていたと思う。7年経って自然と口から出るなんて。


「原川さんのお父さんが、うちの病院入院しててたまに会うの。今日も偶然会って……で、聞いた」

「まさか、まだ狙ってんの?樫のこと」

「それは……知らない。ただ同窓会の後、家まで送ってもらったって嬉しそうに話してた」

「……悔しいんだ?」

「は?」

「嫉妬してる女みたいな表情してる」


3本目のビールのプルタブを引き上げた香が、ニヤリと楽しげに笑う。

嫉妬……。生々しい言葉に嫌悪感が沸く。

だけど、多分香の言う通りなんだろう。

自分の中では、平気なふりして、諦めたふりをして、だけど表情は正直だってことか。


「嫉妬する資格もないって思ってたよ。樫から私をそんな目で見ることはないってキッパリと言われた時から」

「まだ気にしてたんだ。あの時のこと……」

「そりゃあ、気にするでしょ。忘れられないでしょ。人生初の失恋をしたわけだし……」

「可愛いなぁ、もう」


ニヤニヤ笑う香はすっかり酔っ払いだ。

25過ぎて昔の初恋をグダグダ引きずっている女のどこが可愛いんだろう?
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