キライ、じゃないよ。
「自分勝手なだけだよ。とにかく、もうこういうのはいいから」


テーブルの脇に置いてあった伝票を取り、俺は原川を見下ろした。

原川は小さく溜息をついた後、ゆっくり立ち上がって近づいて来る。


「分かった。樫くんに嫌われたくないから、今日は引き下がる。でもね、動くなら本当に早い方がいいよ。近く、八田が皐月さんと飲みにいく約束をしたって喜んでたから」

八田の名前にピクリと頬がひきつるのが自分でも分かった。


「八田、意外とみれるようになったよね。垢抜けて、カッコよくなってた。皐月さんも同窓会で告白されて嬉しかったんじゃない?」

「……原川って、昔から顔広いよな。羨ましいわ、その人脈。」


八田と護から話題を逸らして手に持った伝票をヒラヒラと振った。


「今度仕事先でも紹介してくれよ。じゃあな」

「ちょ、樫くんっ」


背中に原川の不機嫌な声を聞きながら、早々にその場を離れた。

平気なフリが出来ていたはずだ。

あざとい女のせいで痛い目を見るのは2度とごめんだからな。

大学時代の経験が、ある意味女を見る目を養ったとも言える。

八田や、護のような真面目で純粋なタイプには決して近づけたくない女だな。

だけど、もたらしてくれた情報は有意義に使わせてもらおう。
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