キライ、じゃないよ。
「今年は去年の倍位ありそうだね」


席に戻った俺は、既に机の横にぶら下げていた大きめのペーパーバッグに今受け取ったばかりの袋を押し込んだ。


「……可愛い袋なのに、潰れちゃうよ?」


俺のぞんざいな扱いに、護は唇を尖らせた。

だけど俺は面倒なやり取りを終えたばかりで、護が本当は何を責めたのかよく分かっていなかった。

多分、物に対してではなく、相手の気持ちをぞんざいに扱う俺の態度が嫌だったのだろうと、あとで幸島から教えてもらった。


「か〜し〜」


恨めしそうな声が近づいてきて、さらにうんざりする。


「なんだよ、山近。うざい」

「お前、その嫌味なほどに溢れた袋の中身はなんだっつーの」

「チョコだろ?」

「おい、こら。ストレートにその言葉をあげんなや。あちこちで聞き耳立ててる寂しい男どもの反感買ったぞ」

「反感……って。俺なんもしてねぇぞ」

「なんも?なんもつったか、お前。今日のバレンタインという日に向けて、散々努力してきた男どもに対して失礼だぞ!嫌味だぞ!」


山近の鬱陶しさに返事をするのもアホらしくなってきた。

大体チョコなんて好きじゃないし、欲しいと思ったこともない。1人で食えるわけでもないのに、他のやつにやることも、捨てることもできやしない。

こんなイベント、はっきり言って迷惑でしかなかった。


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