キライ、じゃないよ。

「樫って本当に鈍感なんだね。っていうか、無神経だよね。付き合ってる彼氏が他の女の手を引いて出て行くって、裏切り行為だって言われてもおかしくないよ?」


本気で怒っているんだろう。

護の怒りと……相反する寂しげな様子が痛いほど伝わってくる。

これって多分、誤解してるんだよな?俺と田淵が付き合っているって。

どうしてそんな誤解をしているのか、さっぱりわかんねーけど、護だって鈍感じゃねーか。

俺が好きなのが誰か、本気で分かってねーのかよ。

好きでもない女に、あんなことするわけねーだろうが。

胃の辺りがムカついてきた。大して食べてないからこのムカつきは怒りだと思う。

好きな女から、鈍感だの、無神経だの言われてる事に対してじゃない。

そう思わせてる俺の態度に問題があるんだ。だから自分に対して腹が立ってる。


「あのさ、樫の話ってこの間のアレでしょ?わざわざ弁解しなくてもいいよ。お互いに結構酔ってたと思うし、未遂だし……きゃっ⁈」


護がこうして誤解しているのは、俺のせいだから、吐き出される言葉は甘んじて受け止める。

けどさ、俺が勇気出して……いや、実際は酔った勢いもあるけれども。

でも、勇気は出した。

八田みたいにゼロから始められるわけじゃないから、必死だった。

それなのに……護はなかったことにしたいの?

気付けば護が座る助手席のシートを倒して、護を見下ろしていた。
< 98 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop