明日死ぬ僕と100年後の君

「どうしたの、急に」

「食べてないなら、食べてよ。わたしの命」


猫が目を細め、有馬は整った眉を寄せた。

気に障った、とその目が物語っている。



「……何言ってるのかわかってる?」

「わかってるよ。わかってるからお願いしてるの」

「ああ、そうか。わかったよ。君は俺の言ったことを冗談だと思ってるんだね。人の命を食べられるはずがないって」


猫を片腕に抱き、空いた手を宙で軽く振る有馬。

芝居がかった仕草は、まるで何かを誤魔化そうとしているように見えた。


「冗談だったの?」

「大崎さんがそう思うのなら、冗談だよ」

「じゃあ、本当なんでしょ」

「まあ、冗談で終わらせんのはムリがあンだろうなぁ」

「おっさんは黙ってろよ……」



そう。だって、猫が喋っているのだ。それもおっさんの声で。

死神という存在も、命を食べる行為も、猫が喋る理由を説明できない限り、否定することはできない。

猫が鳴く。有馬はわたしを睨みつけ、口を閉じた。


いまさら自分の見たものを、冗談だと片付けられるはずがない。

有馬は確かに、光る玉を食べていた。



「いいから食べてよ。名前も知らない他人の命を食べるなら、わたしの命を食べてよ。1日分の命なんてケチなこと言わないから、何年分でも持っていっていいから」


一歩有馬に向かって踏み出す。

自分の胸に手を当てて、さあどうぞと差し出した。

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