明日死ぬ僕と100年後の君

怒っている。

有馬が静かに、怒りをぶつけてくる。

わたしは何がなんだかわからないまま、それを正面から受け止めるしかなかった。


「君が何を考えてそんなことを言ってるのか知らないけど、僕には関係ない。僕は人の役に立って、はじめて命を代わりにもらう資格を得るんだよ。それがなきゃ、僕はただ人の命を奪う化け物だ」

「化け物ねぇ……。ま、そりゃそうだろうな」



猫がひと鳴きし、有馬の腕の中から飛び降りる。

まるで気分を害したというように、そのまま小走りでどこかへと去っていってしまった。




「楽に生き永らえたいなんて思ってない」



ハッとして、猫から有馬へと視線を移す。


ああ、そうか。

わたしが偽善だとバカにしていた行為はすべて、有馬自身の心を守るものだったんだ。


生存本能と防衛本能。

そのふたつで確立されたボランティア活動は、有馬の命に直結している。


他人が親切ぶって口出ししていい領域じゃなかったのだ。




「君の命の価値は、ひどく軽いんだね」



軽蔑するように言われて初めて、有馬の心が見えた気がした。


有馬は不真面目に生きるわたしに苛立っていたわけじゃない。


命を軽んじて生きているわたしが、誰より何より、憎かったのだ。




< 195 / 306 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop