明日死ぬ僕と100年後の君

ああ、そうか。

気づく暇が、有馬にはなかったんだ。


事故のあとから今日まで、余裕がある日なんかきっと1日だってなかったんだろう。

誰かの命をもらわなければ、明日には死んでしまうという恐怖に追われて。


幸せについて考える時間なんて、彼にはなかった。


やっぱり、かわいそうだ。

どうしようもなくかわいそう。


だってそうだろう。

わたしがこれまで手放してきたものよりも、有馬がこれまで諦めてきたものの方がきっとずっと多い。



「それなのに、生きたがるなんて……僕は本当に浅ましいね」


そんなことない。

そう、言おうとした。

抱きしめたいと思った。目の前で、困ったような笑顔の下、傷ついている有馬を。



けれど伸ばした手が彼に届く直前、背後から激しいブレーキ音と何かがぶつかる音がして、わたしたちは同時に振り返る。


悲鳴が上がる。

続いて泣き声が聴こえてきた。小さな子どもの泣き声が。



弾かれたように、先に駆け出したのは有馬だった。

一瞬遅れて、わたしも続く。

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