ユリの花はあまり好きじゃない
 チェコビーズを使用したオリエンタルなデザインのネックレスが雑誌で紹介された。

 それを機に店頭に新作が並ぶと、一日で完売するようになった。

 使用する素材は桐生さんが海外から取り寄せてくれるようになり、見た目もクオリティも以前のプチプラアクセサリーではなくなった。

 収入にしても本職を上回るようになり、当然生活面にも余裕が生まれた。1年ぶりに美容室に行き、カットとカラー、ついでにヘッドスパまで受けることが出来た。

 たった1年で随分生活の質が変わった。
 もう電気代に追われることはなくなった。

 医療事務とアクセサリー作り。二足の草鞋で仕事を続けていた私に桐生さんが言った。

「そのうち独立したら?」

「アクセサリー作りだけで食べていく自信ないよ。いつ見向きもされなくなるかわからないし」

「俺は百合を食べさせていく自信があるよ」

 何度か桐生さんと訪れたことがあるジビエ料理が美味しいビストロだった。赤ワインが注がれたグラスを握ったまま、桐生さんの言葉を口の中でなぞった。

 え? と顔を上げると桐生さんと視線が重なった。

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