ユリの花はあまり好きじゃない
「どういう意味?」

「どういう意味というか、そのままの意味だよ。百合が良ければの話だけど、俺はそういうつもりで付き合ってるし」

 これってプロポーズみたいなもの? 
 訊ねる私に桐生さんが「うん」と静かに頷いた。

「今は『みたいなもの』だけど、百合も30が近いし、俺はもう34だし。将来を見据えてちゃんとしたいって考えてるよ」

 もう一度「百合が良ければの話だけど」と付け足した桐生さんは照れ笑いを浮かべていた。

 正直に言えばどうしたらいいのか、自分でもわからなかった。

 嬉しさもある。
 けれど、その何倍も私は困っていた。
 今更「実は」とシンちゃんの存在をカミングアウトするにはタイミングを逸したし、桐生さんとの安定的な関係を解消させる勇気が私にはなかった。

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