綺麗なブルーを描けません
あたしは黙って、彼に向き直ると、じっと顔を見た。

「無駄な抵抗をする気はないようだね。お利口さんだ。…ところで鼻、詰まったりしてない?」

あたしは、横に首を振る。

「良かった」

笑って、彼は、あたしの口に、今度は広いビニールテープを貼った。

ここまでするんだ。

でも、意外には思えないな。

睨んでると、クスっと笑って近づいて、至近距離に滞在した後、思いついたようにキスされた。

この…

テープなかったら、噛みついてやったのに。

「さて、準備は整った」

あたしは靴を脱がされて、部屋に引っ張ってゆかれる。

玄関の先の、広いリビング。

そこに、綺麗な女の人が、あたしと同じ有様で、座ってる。

ああ…。

初めましてな、柊くんの奥さんだ。

訊かなくても分かった。

だって、彼女の、憎しみの籠った目。
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