綺麗なブルーを描けません
「…だれ?今の」

マンションから出ると、訊いた。

柊くんは、何かを気にしながら手を離す。

あたしがいつもしている、皮のブレスレッドが揺れる。

とっさに手首と一緒に掴んだから、壊してないか気になったんだろう。

無事なのを確認すると、こっちを向いて、

「…兄」

答えた。

「…そんなヒト、いたんだ」

家族と仲が良くない柊くんは、家族の話をしない。

だから、あたしも訊かないし、家族構成すら知らなかった。

「言っちゃああれだけど、しかも一瞬しかかかわってなくて言うのもあれだけど、めちゃくちゃ感じ悪いね」

柊くんと正反対だ。受ける印象からして。

「頭が痛い…」

「何か、状況を悪くしてしまった気がするけど、とりあえず、柚葉さんのとこに行こう?」  

×

「久しぶり、柚葉さん」

柊くんは、温厚なまま、笑ってる。

頭の痛い状況なのに。

「元気だったか」

「まあまあ、ね」

席に着くなり、いろいろと話し始める。

いつの間に、こんなに仲が良かったんだろう。

あたしは、入り込めない。

「じゃ、乾杯して食べよう。オレ、もう飲んじゃってるけどな」

料理も頼んでくれてたので、すぐに食べられる。

「あ、これ、好きだよね、柊くん」

お箸が綺麗なうちに、無理やり、柊くんのお皿に、食べ物を乗っける。

こうしておけば、最低でも、これは食べてくれる。

せっかく食べろって勧めてくれたものを、残せる人じゃないから。

あたしの必死な作戦を横目に、柚葉さんも、じわっと柊くんに食べ物をすすめる。

「何か、痩せてないか?柊。エマのお守りで疲れたか?」

「まさか。助けられっぱなしです。心強いし」

心にもないことを…
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