甘い脅迫生活
溜息を吐いた優雨は、小さく笑って前を見た。まるで目の前で昔の私たちを見ているように、視線はせわしなく彷徨っている。
「一瞬で、恋に落ちたよ。」
「……はい?」
嬉しそうに口を衝いて出た言葉は、思いがけないもので。茫然とする私とは対照的に、言った本人は恍惚とした表情を私に向ける。
「素敵な女の子だと思った。俺よりも強く、そして美しいと思った。」
「……。」
やっぱりこの人。
「俺の妻には君しかいないと、あの時確信したよ。しかし年齢はどうしようもなかったからね。君が成長するまでにとにかく、君に見合う男になろうと、まずは会社を乗っ取ることにしたんだ。ああ、乗っ取るという言葉には語弊があるな。将来俺が継ぐことは決まっていたからね。だけどあの伯父を見れば分かるだろう?早々に対処をするべきだと思ったよ。」
変わってる。
「ああ、今回の誘拐を依頼した伯父は警察に捕まえてもらったから。もう二度と君を煩わせることはないと断言できるよ。犯人も然りだ。」
「はぁ。」
あの誘拐犯とも呼べない人の良いおじさんは、やっぱり捕まってしまったらしい。熱に浮かされた意識の中で、親身になって話を聞いてくれていたのを覚えていた。
自業自得とはいえ、少しだけ可哀そうだと思ってしまう。
「そうと決まれば、美織。」
「はい?」
いつの間にか、私の前で片膝をついて座っている優雨が、王子様スマイルで私の手を取る。
「挙式をしよう。派手に。」
「はぁ?」
私はこの人が怖いけど、それ以上にこの暴走癖が、一番怖い。