甘い脅迫生活
「西園寺社長。この度はご結婚、おめでとうございます。」
突然ですが、披露宴です。
主役の私たちに笑顔で挨拶をしているのは、小竹万由里専務。
水色のドレスに身を包んだ専務は、相変わらず綺麗で。
明らかに身の丈に合っていないお値段のドレスを持て余している私よりよほどこの席が似合いそう。
そういえば、あの噂はどうなったんだろう。
隣の優雨をチラリと見れば、いつもの社長モードスマイルでまっすぐに小竹専務を見ていた。
顔合わせの時は、優雨への気持ちを認めていない部分があって、さえちゃんと話した時はそれ以上に意識をしていなかったから大丈夫だったけど……。
否定はしていたけど本当に、この2人の間にはなにもないんだろうか?
披露宴の真っ最中。しかも自分は主役だというのになぜか、そう思うと不安は大きくなるばかり。
優雨と結婚するのは、私なのに。
なんでこんなに、不安なんだろう。
だけど、”火のない所に煙は立たぬ”と言うように、噂の発信源は、存在するはず。そう思ってしまえばもう、不安の無限ループだ。
「あ、そうそう。そう言えば、最近というより、今の今まで、私と社長が付き合っていた、という噂があるの、みなさんご存じですか?」
「っっ。」
小竹専務の言葉に、目を見開いた。彼女を見れば、ニヤリと口角を上げてこちらを見ている。
会場にざわめきが走る。これから彼女が何を言うのか。大きくなる不安を抑えるようにテーブルの下で手を強く握った。