甘い脅迫生活
そして最大に気になるのは……
「婚姻届けの保証人の欄に、私の母の名前があるんです、が。」
そう。保証人のところに書いてある女性の名前は自分の母親のものだった。
住所も実家。筆跡も見覚えのあるもので、本人が書いたもので間違いなさそうだった。
「そうだよ。君のお母様のものだ。」
肯定してみせた社長は、優雅に足を組んでティーカップを傾けている。その笑顔はとても爽やかで、決して人を脅迫している人間が見せるものじゃない。
……それが逆に、言い知れぬ恐怖を感じさせた。
「あ、それとこれ。」
固まる私へ向けて社長が机の上をずらしてみせたそれは、一番端に置いてある紙表紙のそれ。
「ここに俺のプロフィールが載ってるから。」
そう言われても、私は何も書かれていないその表紙をただ見つめていることしかできなかった。
ちょっと待って。ほんとに。私って今脅されてるよね?しかも要求が結婚?訳が分からない。西園寺フードの社長がなんで私みたいな女に?
とりあえず結婚しなくちゃいけないとか?それにしてももっと良い人はいるはず。
あまりにも突然で突拍子もなさすぎて、何も言葉が出ない。