甘い脅迫生活
「ほんとはね、あの漫画のようにロマンチックにしてあげるつもりだったんだ。」
ティーカップを置いた社長は、ため息を吐きだした。
「やっぱり慣れないことはするものじゃないね。それに美織は、脅した方が効果がありそうだ。」
「っっ、」
穏やかな表情はそのままに。なのに色素の薄いブラウンの目の奥からは、底知れぬ恐怖が伺えた。睨んでいるわけじゃない。それでもこんなにも私を威圧するのは、この人には絶対に逆らってはいけないという、自分自身の声だ。
「社長。脇坂様が怯えてらっしゃいますが。」
静かな室内。山田さんの抑揚のない声が響いた。
ゆっくりと山田さんを見た社長は、一言。
「山田、外せ。」
無機質にそう言い放った。
「かしこまりました。お時間は?」
「1時間。」
「はい。失礼いたします。」
淡々と会話が成され、山田さんは社長と私、それぞれに綺麗な礼をして部屋を出て行ってしまった。
残されたのは、当たり前だけど私と社長のみ。山田さんが退出したことで、更に身の危険を感じ、恐怖で身体が震えてきた。