甘い脅迫生活





「怖がらせてしまった。ごめんね。」



社長の声音はすごく穏やかだ。だからこそ、恐怖と同時に怒りが込み上げた。キッと睨みつけると、社長が驚いたように目を見開いた。


「なんですかこれ。嫌がらせですか?副業のせい?それにしては手が込んでますね!」



うちの会社は副業が禁止されている。その決まりを破ったのは私。理由があるとはいえ、規則を破った私が全面的に悪い。だけどこれは?副業しているのを材料に結婚を迫るなんて。嫌がらせにしては意味不明だ。



それに、廊下のマンガの真似をしたにしても、ありきたり過ぎて逆に微妙。


綺麗な飴色の髪。薄いブラウンの瞳にキリッとした眉。弧を描く口元はセクシーで、多くの女性が何をしてでも付き合いたいと思うだろう。


そんな人だからか。自分にかなり自信があるようで。


自分が何をしようと女はみんな、しっぽを振ってついてくるとでも思っているらしい。




こんなのって、酷い。あまりのやり方に涙が出そうだ。



睨み続ける私を、社長はジッと見つめている。その表情からは何も読み取ることはできない。


ふと、社長が笑う。おかしくて仕方がないとばかりに肩を揺らして。




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