甘い脅迫生活
「何が可笑しいんですか!」
写真に婚姻届け、契約書にプロフィールまで用意してこんな手の込んだ悪戯をするなんて。見れば全て本物に見える。
「私がお金目当てだったらどうするんですか?社長が目当ての人なら喜んで飛びつく話ですよね!」
目の前の書類にサインすれば、私は社長と結婚できてしまう。そんな私がもし、社長が目当てだったら?西園寺フードの社長のくせに、危機感が足りなさすぎるんじゃない?
退屈な大金持ちの余興にしては笑えない冗談だった。
「フフッ、クックックックッ、」
「だから何が可笑しいのよ!」
それなのに、等の本人は何がツボだったのか笑いが止まらない様子。ほんとに大丈夫なのこの人?
思わず机を叩いて立ち上がった私を見ても、まだ笑い続けている。
「フハッ、だってお前っ、騙したと思ってる俺の心配してどうすんだよ?」
「っっ、」
お腹を抱える社長の子供のような笑い顔、急に崩れた敬語に、胸が高鳴った、気がする。
「だって、」
そのドキドキを知られたくなくて。何より自覚したくなくて、社長から目を逸らした。